1、かつての広告規制
平成13年の税理士法改正以前、税理士業界にはたとえば次のような規制がありました。
①税理士は個人で事務所を1ヶ所だけ設置することができる。
②既に他の税理士が関与している顧問先への営業活動の禁止
③報酬規程
④広告自主規制により、広告は事務所名・住所・電話番号のみ
これが税理士法改正でがらりと変わります。
たとえば①については税理士法人制度が創設されます。
税理士法人であれば複数事務所の設置がOKです。
③の報酬規程については(実はこれは上限額のみを定めたものでしたが)撤廃されました。
④の広告についても原則自由とされました。
ここでは広告規制の撤廃について詳しく考えたいと思います。
2、解禁、但し規制は残る
上述のように税理士の広告は原則自由とされました。
しかしながら、税理士会の綱紀監察部は多くのネガティブリスト
(自由といってもこのような広告は望ましくないですよという例)を作成しています。
いくつか例をあげてみましょう
「最高の税務知識を提供します」 「どんな問題もたちどころに解決します」
(※ 誇大または過度な期待を抱かせる広告は不可)
「元国税○○の税理士ならではの豊富な人脈・情報」
(※ 税務行政庁在職時の具体的役職名を上げては不可)
「税の抜け道、抜け穴教えます」 「究極の節税テクニック」
(※ 税理士の品位または信用を損なうおそれのある広告は不可)
「税理士顧問契約をいただいた方には商品券○○円分プレゼント」
(※ 社会的儀礼の範囲を超えた利益供与の広告は不可)
ここに挙げたものはほんの一部であり、リストはまだまだあります。
これを見れば税理士会の上層部は本音では広告自由化に積極的ではない、
若手税理士の広告で自らの顧客基盤が侵されることを懸念している心理が垣間見えます。
3、税理士広告の現状
さて上記の広告規制解禁からおよそ10年が経過した現状はどうでしょうか?
この10年は同時にインターネットの急速な普及、税理士業界の競争激化の10年でもありました。
結果として、WEB上には税理士事務所の広告が百花繚乱、しかもネガティブリストで禁止されている
広告すれすれ、いやむしろ完全に無視したような広告ももはや珍しくありません。
「絶対○○の裏○○」という綱紀を逆なでするような広告をわざわざリスティングで出している
税理士法人もありますしね。
貧すれば鈍す、と言えば自らの属する業界に対してあまりに悲観的な言葉であり、
かつ当事務所でもホームページでの広告には相当力を入れているので人のことは言えません。
ただ 自由化+ネットの普及=大多数が貧乏になりごく少数が富む という公式が税理士業界でも
見事に出現されているのを見てただ溜息をつくばかりというのが今日時点での心境です。
4、他士業との比較
参考までに弁護士の広告規制とその緩和についても調べて見ました。
弁護士ももともとは広告が規制されており、1987年に一部解禁、2000年に全面自由化されたようです。
全面自由化はほぼ税理士と同じ時期になりますね。
ちなみにこの広告規制緩和を含め、司法改革路線の中心にいたのが野戦の指揮官、中坊公平氏です。
それでも税理士に比較して弁護士、法律事務所のインターネット上での広告はかなり少ない印象があります。
もちろん母数の違いもあるでしょう(税理士は約7万人、弁護士は約3万人)。
ただそれよりも費用対効果を考えた場合に、業者に相当の料金を払って広告を出す意味があるのか、
税理士に比較すればまだ競争の緩やかだった弁護士業界ではそんな考えが多数派だったようです。
しかしこの数年で状況は変わりました。
一つは過払い金問題、もう一つは司法試験改革による合格者数増加です。
既に電車内に法律事務所の広告は珍しくありませんが、やがてインターネットも
弁護士のサイト・広告で埋め尽くされるでしょう。