税理士事務所のお客様は大きく法人のお客様と個人事業主のお客様に分かれます。
そのうち、個人事業主の多くが国民健康保険と国民年金に加入されています。
税理士は税金の専門家ですが、お客様にとっては税金も社会保険料も所得に応じて支払うお金であることは変わりありません。
従いまして税理士も国民健康保険や国民年金の基本的な仕組み、保険料の計算方法を理解しておくことが重要です。
国民年金は全国一律定額の保険料ですが、国民健康保険は市町村ごとに料率が異なり、計算方法もずいぶんわかりにくいように思えます。
そこでこのページでは堺市国民健康保険料の計算方法を中心に解説していきます。
〜三つの分(ぶん)〜
堺市国民健康保険の保険料は各世帯ごとに納めます。
堺市が1年間に必要な医療費の見込み額から、国からの補助金および被保険者が医療機関窓口で支払う一部負担金を差し引いた金額が保険料の総額となり、この保険料を所得や世帯の人数に応じて世帯ごとに割り振ることで各世帯の保険料が決まります。
被保険者が納める保険料には、この医療分の保険料のほかに、支援分と介護分の保険料が含まれており、その内容は下記の通りです。
→医療分とは・・・1年間に必要な医療費の見込み額から、補助金・一部負担金を差引いた金額
→支援分とは・・・後期高齢医療制度に対する支援金を負担する為の保険料
→介護分とは・・・介護保険2号被保険者(40〜64歳までの人)が徴収される。介護サービスの財源となる保険料。
(なお介護分の保険料は40歳になる月の前月から65歳になる月の前月まで月割りで賦課される)
〜三つの割(わり)〜
さらに、保険料は下記の3つの合計になります。
所得割・・・世帯の賦課対象所得に応じて計算
均等割・・・世帯の被保険者数に応じて計算
平等割・・・1世帯当たりにかかる
三つの分と三つの割の関係を表にすると以下のようになります。
医療分 | 支援分 | 介護分 | |
所得割 | 賦課対象所得に応じて計算 | 世帯の介護2号被保険者の | |
均等割 | 世帯の被保険者数に応じて計算 | 世帯の介護2号被保険者数 | |
平等割 | 1世帯単位にかかる | ― |
堺市国民健康保険料の計算は以下の順序で行います。
①被保険者ごとの前年中の「総所得金額」を計算します。
②総所得金額から基礎控除額33万円を控除したうえで(基礎控除後総所得金額)、全員分を合算して保険料計算の基礎となる「賦課対象所得」を算出します。
③医療分・支援分・介護分について、所得割額・均等割額・平等割額をそれぞれ計算します。
用語の意味と注意点は以下の通りです。
「総所得金額」
収入から経費を差し引いた金額です。
事業所得・給与所得・公的年金等雑所得いずれも所得税の計算における所得と完全に一致します。
つまり確定申告をされている方であれば確定申告書Bの所得金額の合計(⑨欄)の金額が総所得金額になります。
事業所得であれば青色専従者給与・青色申告特別控除額は経費に含めて計算します。
給与所得控除額や公的年金等控除額も所得税の計算と全く同じです。
注)但し退職所得は総所得金額に含まれません。また分離課税所得(土地、建物、株式の譲渡所得等)がある場合は、市役所へ計算方法を確認して下さい。
「基礎控除後総所得金額」
総所得金額から33万円の基礎控除を控除した金額です。
税金計算と保険料計算で異なるのは税金計算で言うところの所得控除・税額控除の部分です。税金計算では扶養家族の人数や社会保険料・生命保険料の支払い状況、あるいは住宅ローンの有無が関係しますが、保険料計算では一切考慮されずに一人一律33万円の基礎控除がなされるだけです。複数の所得がある場合でも基礎控除額(33万円)は一度だけ引くことができます。
「賦課対象所得」
世帯の被保険者全員の基礎控除後総所得金額の合計額です。
保険料のうち所得割はこの賦課対象所得を基にして計算します。
但し介護分の所得割の賦課対象所得は被保険者全員ではなく、40〜64歳の被保険者の基礎控除後総所得金額の合計額です。
単身世帯であれば、次の算式で計算した金額がそのまま賦課対象所得になります。
(1)給与所得の場合
収入金額−給与所得控除額−基礎控除額330,000円
(2)年金所得の場合
収入金額−公的年金等控除額−基礎控除額330,000円
(3)事業、農業、利子、配当、不動産、年金を除く雑所得、一時、総合譲渡その他譲渡所得等
収入金額−必要経費−基礎控除額330,000円
平成28年度の堺市国民健康保険料の本算定の料率は下記の通りです。
(料率は毎年見直されるので注意して下さい)
医療分 | 支援分 | 介護分 | ||||||
所得割 | 均等割 | 平等割 | 所得割 | 均等割 | 平等割 | 所得割 | 均等割 | 平等割 |
81/1000 | 21,960円 | 26,880円 | 29.9/1000 | 7,800円 | 9,600円 | 28.7/1000 | 15,360円 | − |
賦課限度額 52万円 | 賦課限度額 17万円 | 賦課限度額 16万円 |
それでは堺市堺区に住む架空の吉田一郎さん一家を例にして平成28年度の堺市国民健康保険料を計算してみましょう。
吉田一家は家族5人全員が堺市国民健康保険の被保険者で、一家の昨年平成27年の収入は以下の通りです。
▼ 吉田一郎(世帯主・52歳・自営業)
売上高860万円、諸経費600万円、他に青色専従者給与60万円、青色特別控除65万円
▼ 良子 (妻・48歳)
収入は夫一郎から支給された青色専従者給与60万円
▼ 幸子 (長女・25歳・派遣社員)
収入は給与180万円
▼ 俊彦 (長男・18歳・高校生)
収入は0円
▼ キミ (母・73歳)
収入は年金144万円
計算は以下の順序で行います。
①まず、各人ごとの総所得金額および基礎控除後総所得金額を計算します。
〜一郎〜
収入金額860万円−必要経費(600万+65万+60万)=総所得金額 135万円
135万円−基礎控除33万円=基礎控除後総所得金額102万円
〜良子〜
収入金額60万円−給与所得控除65万円=総所得金額 0円
0円−基礎控除額33万円=基礎控除後総所得金額0円
〜幸子〜
収入金額180万円−給与所得控除72万円=総所得金額 108万円
108万円−基礎控除額33万円=基礎控除後総所得金額75万円
〜俊彦〜
収入金額は0円なので総所得金額および基礎控除後総所得金額も0円
〜キミ〜
収入金額144万円−公的年金控除120万円=総所得金額24万円
24万円−基礎控除額33万円=基礎控除後総所得金額0円
②次に、各人の基礎控除後総所得金額を合算して吉田家の賦課対象所得を算出します。
医療分と支援分の賦課対象所得は世帯全員分ですが、介護分については40〜64歳までに限定されることに注意です。
〜医療分と支援分の賦課対象所得〜
102万円+0円+75万円+0円+0円=賦課対象所得 177万円
〜介護分の賦課対象所得〜
102万円+0円=賦課対象所得 102万円
③医療分・支援分・介護分それぞれの所得割額・均等割額・平等割額を計算します。
| 医療分 | 支援分 | 介護分 |
所得割 | (177万×81/1000) 143,370 | (177万×29.9/1000) 52,923 | (102万×28.7/1000) 29,274 |
均等割 | (5人×21,960) 109,800 | (5人×7,800) 39,000 | (2人×15,360) 30,720 |
平等割 | (一世帯あたり) 26,880 | (一世帯あたり) 9,600 | ― |
合計は441,567円になりました。
前年の世帯の軽減判定所得(※)が下記の基準額以下の場合には、保険料の均等割額と平等割額が軽減されます。
軽減される割合 | 基準額 |
7割 | 33万円 |
5割 | 33万円+【(被保険者数+特定同一世帯所属者数※)×26万5千円】 ただし、世帯主は人数から除く |
2割 | 33万円+【(被保険者数+特定同一世帯所属者数※)×48万円】 |
※軽減判定所得とは
世帯の国保加入者、擬制世帯主(国保の被保険者ではない世帯主)、特定同一世帯所属者の「総所得金額等」を合算した金額です。保険料計算の賦課対象所得とは異なります。
また、以下の注意点があります。
【1】事業専従者の給与は受給者の所得に含めず、支給者の所得に含める
【2】土地・建物の譲渡所得の特別控除は適用されません
【3】前年12月31日現在で65歳以上の人は、年金所得からさらに15万円を控除する
※特定同一世帯所属者とは
国保から後期高齢者医療制度の被保険者になった人で、後期高齢医療制度に加入後も継続してその世帯にいる方のことです。
後期高齢者医療制度に加入して5年を経過した時や、世帯主が異動した時は同一世帯と見なされなくなり、特定同一世帯所属者ではなくなります。