1、無償独占とは
無償独占とは、税理士業務はたとえ無料であっても税理士以外の者が行っては
ならないという定めのことを言います。
条文を見てみましょう。税理士法第52条です。
「税理士でない者は以下の行為をしてはならない。
1 税務代理
2 税務書類の作成
3 税務相談」
ここでは「対価を得て」などという文言はありません。
つまり有料だろうが無料だろうが他人のために上記の行為をしてはならないということです。
もちろん自分自身で所得税の申告書を作成する、あるいは会社が社内で法人税の申告書を作成する、
これらは認められます。そもそもこのような自主申告、自書申告がわが国では前提となっているからです。
自分で申告書の作成ができずに他者の力を借りる場合、それは税理士だけが請け負うことができます。
これが例えば弁護士法になりますと、弁護士以外の者が行う法律行為、いわゆる非弁行為は
有償でおこなった場合のみ弁護士法違反とされています。
ですから税理士の無償独占権というのは一般的には非常に強固な権利と考えられており、
一部から批判もあるようです。
すなわち税理士であろうがなかろうが、税務知識のある人間が知識の乏しい人間を指導すれば
結果として国民全般の間に知識の充実が図られ、申告納税制度がより発展するのではないかと。
2、無償独占の歴史
なぜ他の専門業種にも認められていないような、無償独占権という強固な権利が
税理士業務には認められているのでしょうか?
確かに所得税の申告書はもちろん、法人税・消費税・相続税の申告書なども、
一般人でも適性ある方なら、相当な勉強をされればそれなりに作成できると思います。
それでもなお無償独占権が必要とされるのはなぜでしょうか?
税理士法作成当時の議論の詳細は今では不明点が多く、無償独占については
税理士界でも様々な考え方があります。
その中でも有力なのは税理士業務の公共性を重視するものです。
税理士業務は税金を通じて国家財政と緊密に関係しています。
納税に関する実務のレベル低下はそのまま国家の危機につながるわけです。
税理士制度がなかった明治時代には民間の事業者が乱立してレベルの低いサービスを
展開したそうです。
それを防ぐため、大阪で「税務代弁人取締規則」という法律ができて
これが税理士制度の始まりであると言われています。
無償独占は国家財政に少しでも危機をもたらす可能性のあるものは
根こそぎにするという国家の決意の表れのような気もします。